
『一瞬で100のアイデアがわき、一瞬で1000人の心がつかめる本』(小川仁志著、幻冬舎)の著者がいうとおり、哲学に少なからず「やっかいで使えない学問」という印象があることは否めません。そこで、「哲学のエッセンスをわかりやすく抽出することで、それを使える形に加工してみた」のが本書。
哲学をうまく使えば、いいアイデアが出て、かつうまくそれを秘湯に伝えることもできるのだとか。著者の言葉を借りるなら、「『アイデア+プレゼン+哲学=大成功!』という図式が成り立つわけです。II部「一瞬で100のアイデアを生み出すための思考術」から、いくつかを拾ってみます。
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1.否定弁証法で反対を考える
ここで著者は、ばかげた発想から、とんでもないアイデアが生まれると主張しています。そして、ばかげたことを考えるための一番効果的な方法は、すでにあるものの反対を考えることだとも。重要なのは、役に立たない非常識なものも、あくまで「ある用途のためには」という限定付きである点。たとえば「物を入れないカバン」は物を入れる目的には役立ちませんが、雨具や防災グッズになるとしたら充分に役立ちます。これが、ドイツの哲学者アドルノが提唱した「否定弁証法」だそう。
ものごとは、あえてまとめない方が、いろんな可能性が残るという考え方。具体的な方法としては、常識の反対を挙げる、役に立たないものを思い浮かべる、意味のないものを思い浮かべる、タブーに挑戦する、嘘を考える、すでにあるものとの違いを考える...などがあるといいます。(56ページより)
2.メタモルフォーゼ式「まったく違う見方・使い方
多くの新しいアイデアは、もともと存在するものの見方を変えることによって生まれている。だからこそ、できるだけたくさんのものの味方をすることが大切だと著者は言います。
メタモルフォーゼとは生物学用語で「変態」「変身」を意味しますが、ものごとはいろんな顔を持ちうるため、アイデアはあるものごとのメタモルフォーゼだといっても過言ではないという考え方です。つまり、同じ理屈の使い方を変えることも、アイデアを生み出すためには有効。視点を変えて、まったく違う使い方をする。本来予定されているのとは異なる使い方をすることで、新しいアイデアが生まれるわけです。(60ページより)
3.ヒュームの視覚化
人間は誰しも概念を図として思い浮かべる、つまり視覚化してとらえる能力を備えているもの。事実、イギリスの哲学者ヒュームは、人間の知は知覚に基づくとしているそうです。つまり、言葉や概念を図示することによって、言葉で表現する以上に明確なイメージを表に出すことができ、そこからアイデアが生まれるという考え。(64ページより)
4.偶然的に組み合わせる
具体的なものを作ろうと思って試行錯誤を繰り返す過程で、思いもよらない副産物が誕生することがあります。その副産物を生み出す能力を、セレンディピティと呼ぶのだそうです。あるものを探しているときに、偶然別のなにかを発見する能力のこと。いわば、偶然に気づく力です。
だとしたら、偶然の出会いを求める積極的な態度が必要だということになるはず。だからこそ、既存の要素をどんどん組み合わせてみることが大切。しかも意外なもの同士の方がよりよく、「そんなばかな」と人から言われそうなものを果敢に組み合わせる勇気が、斬新なアイデアを生むということです。(68ページより)
5.物語をつくる
物語とは、一続きのアイデアのかたまり。物語が飽きさせないのは、最初から最後までなにかが続いているから。そして、そこには展開がある。次々と意外なことが起こるというのは、言い換えれば、次々とアイデアが湧き出ているということにもなると著者は言います。
つまり物語を作るというのは想像の連続だからこそ、物語を作るようにアイデアを出すべきだという考え方。物語はひとつの体系のなかでアイデアが連続しているだけに、この方法を使えばアイデアが連想ゲームのようにわいてくるというわけです。
ここで重要なのが、「ナラトロジー(物語論)」。なぜそのように展開していくのかという因果関係のことであり、いわゆるプロットにあたります。テーマを物語ととらえ、その物語のプロットをたくさん考える。小説化になったつもりでそのモノの物語を書いてみれば、それがアイデアにつながるといいます。(72ページより)
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ユニークな主張ひとつひとつは、ただユニークなだけではなく、明確な根拠を感じさせます。そういう意味では、アイデアを生み出すためのメソッドが凝縮された書籍であるといえるのではないでしょうか?